徒然なるままに ~“我が青春の”片岡義男~

徒然なるままに ~“我が青春の”片岡義男~

 30才半ばの1980年代、片岡義男に凝っていました。今流行りの言葉で言うと「ハマってた」と言うのでしょうか。「スローなブギにしてくれ」「彼のオートバイ、彼女の島」「ロンサム・カウボーイ」など、チョコレート色のカヴァーがシックな角川文庫の新刊が出るのを待ちかねて購読していました。文庫書下ろしのハシリであったかも知れません。私自身は、これからどんな仕事ができるのだろう?何か新しい出会いがあるのだろうか?と気持ちも乗っていた頃だと思います。片岡の小説は都会、海、ハワイなどが舞台、また洒落た男女の生態が車やオートバイを媒介に語られます。私自身、もう“間に合わない”何かノスタルジーを探していたのかも知れません。「ターンパイク(高速道路の開閉ゲート)」とか「ラハイナ(ハワイの地名)」といったカタカナで綴られると、どこか違った世界へ連れていかれるような、それまで味わった事のない新しい小説だったのです。片岡小説に背中を押されて、とうとうバイクを買ってしまいました。スタジオ番組の司会をしている頃、音響効果担当のバイク乗りに頼んで中古のバイクを探してもらいました。自動二輪の免許は高校時代に取っていて、友人のバイクを時々運転していたのです。2人の息子は小学生、家族には内緒です。「これくらいの我がまま、隠し事はあっても良いだろう」と一人で“青春”していたのでしょうね。

 ある日、「バイクが来た」、と効果氏が知らせてくれました。さあ西天満の会社から宝塚の自宅まで乗って帰らなければなりません。高校以来、数十年ぶりのバイクです。流石にちょっとひるみましたが、思い切って新御堂筋に乗りました。最初のうちは緊張の連続でしたが、幹線道路を外れて一休みしたり、なんとか山の上のニュータウンにたどり着きました。勿論自宅に乗って帰る訳には行かないので、計画通り、商業エリアの野天の駐車場にパーク、何喰わぬ顔で帰宅したのです。その後も、時々ツーリングを楽しんでいたのですが、良い事?は長続きしません。

 ある日、駐輪していた場所に近い寿司屋のオヤジさんがお節介にも「奥さん、ご主人がバイクを停めている場所で近いうちに工事が始まりまっせ」と。帰宅すると、、、お解りですね?さんざん嫌味を言われて自宅、駐車場脇に置く事になったのですが、変なもので、そうなると余り乗らなくなるのですね。仕事が忙しくなった事もあって、バイクも野ざらし状態になり、とうとう中古車屋に引き取ってもらう羽目に。山のようにあった文庫本も、ある日、古書店に持っていきました。“片岡熱”が下がるとともに、“中年のおっさん”の領域に入っていったのだな、と今振り返っています。

ただ、片岡義男という名前を聞くと未だに、海の風景や文庫本のお洒落な挿絵が目に浮かんできます。      

 関西テレビ 出野徹之

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